いつも胸やけ

ムーミンと夫と子どもと暮らしています

『せいいっぱいの悪口』

起きたときにはそこまで寒さは感じないけれど、外に出た瞬間に「わ、さむい」と思う。あと校内も寒い。寒いし職員室の前の廊下はなぜかいつも電気が消えていて、余計に寒々しいのでどうにかしてほしいとつねづね思う。

編集北尾さんに、「もう本は発売を迎えたということでよいのでしょうか、、?」と聞いて、書店に並ぶのはこれからだけれど、Amazonでは購入できるし、そういう認識でよい、とお返事があって、いつの間にかもう『せいいっぱいの悪口』は発売を迎えていた。

出版の話をいただいてから数えれば9ヵ月で、長いような、同時にまた本を作ると思えばそんな一年足らずで完成してしまうものなのかと驚くような、出来上がってもまだどこか他人事で、これからだれかの手に渡って感想などをもらうことで実感するようになっていくのだろうか。

本は、恥ずかしいけれどせっかくだから教科主任に渡した。国語科で回してもらえたら、と伝えて、返ってきたら図書室に寄贈しようと思っている。この前司書さんに挨拶に行ったら、とても喜んでくれてサイン入れてくださいよ、と言われ、それは誰宛のサインになるのだろう。「◯◯中高さまって書いてくれたら」と言われてなるほどと思う。堀静香という名前は旧姓で、今勤める学校では違う名前で呼ばれている。生徒たちは実に愉快で、今日は授業中に涙を流して笑ってしまった。しかもどうやらわたしのツイートを見ているらしいから本が出ることも既に知っているけれど、授業で改めて話すかどうか。近所の本屋にも置いてもらえることになったので、そのことはちょっと自慢してみようかと思っている。

「五時間目は日が出とったからあったかかったけど、さっきは雲が出てもうめちゃくちゃ寒かった」と体育の先生の声が聞こえて、やっぱり寒さのことをみんなこうして口にする。向かいの家庭科の先生から、寒いからね、とスティックタイプのカフェオレをもらった。わたしは職場にマグカップを置いていないのでこれは夫のお土産にして、引き出しから小分けのアポロチョコを出して先生に渡した。この前の週末に出かけた老人ホームのお祭り(老人ホームの祭りにばかり行っている)でもらった小さなお菓子が今家に大量にあり、というのもこれらは「お菓子撒き」で得たもの。駄菓子が空から降ってきて、それを這って拾う。うまい棒だとかおやつカルパスだとか飴だとかが、だからわんさか家にあってこうしてその一部を引き出しに忍ばせている。

こうして一冊になった本には、書けなかったことがたくさんあるなと思う。頭のなかをからっぽにして、すべてを出したつもりで、渾身の力で書いたことにかわりなくて、それでも一冊になってしまえばわたしの手をはなれて、するとどうしても書けなかったことのほうが気になってしまう。でも、どんな人にどんな風に読まれてもうれしい。

ぽつぽつと、書店さんにも置いていただいているツイートを観測し、とても不思議な気持ちがする。昨日、北尾さんから「早速Amazonのカート落ちになってますね」とメールが来て、カート落ちという言葉をそもそもよく分かっていなかったが、一時的な在庫切れということなのだろうか。ありがたいことに、すぐに対応してくれたから今朝には復活していたが、在庫切れということは発売直後に買ってくれた人が多くいたということなのだろうか。売れるのか。そんなに売れないのか。気になってしまうのは、これはかつて作ったZINEとは違って、編集者をはじめ、多くの人を巻き込んで作ったものだから。少しでも売れてほしいと思うから。けれど正直、これはとても地味な本なのではないか。北尾さん、よくはじめにこれを売ろうと思ったな、すごいな、と思いつつ、だからバズったり派手にメディアで取り上げられたり、そういう注目のされ方はしないのだろうと思う。分かっていながら、ほかの人の本が増刷をくり返すのを見て、すごいなぁと思って、そしてたぶんものすごく焦ってしまう。これから来る北尾さんからのメールは増刷します! というお知らせなのではないかと1%くらいチラついて開くまでに緊張してしまいそうなのでほんとうにそのときには電話をください、と後で連絡しようと思う。
けれどひとつ、とてもうれしいのは、この『せいいっぱいの悪口』は版元の百万年書房のあたらしいレーベルの一作目ということで、これからつづく数冊が素晴らしい書き手の方ばかりで、そうしてシリーズのひとりになれたことはとても光栄です。(巻末にシリーズの告知があります)

これから控えているイベントもあり、既にサイト内で売り出してくれている書店についてもリンクを貼っておきたいと思います。

細くでもいいから長く、読まれる一冊になったらうれしいです。次の文フリ東京でも百万年書房のブースに立つ予定なので、そこでお会いできる方もいるのだろうか、そんなことも思いつつ、これからどうぞよろしくお願いします。

lighthouse(千葉)
https://lighthouse24.thebase.in/items/67083679

またlighthouseさんでは11/11に僕のマリさんと刊行記念トークイベントがあります
https://books-lighthouse.com/portfolio/seiippai221111/

toi books(大阪)
https://toibooks.thebase.in/items/68310211

ホホホ座浄土寺(京都)
https://hohohozazaza.stores.jp/items/6357b2fef80f1e672cbc696f

どんどん扱っていただける書店は増えてゆく予定、、ありがとうございます。よろしくお願いいたします!

はじめ、ZINEを作ったときに考えたこの「せいいっぱいの悪口」というタイトルを、自分で考えたくせにあまりいいものに思えず、ずっと実はピンと来ないままだった。でも、いいやもう、とこの名前で出して、それからは「いいタイトルですね」と言ってもらえることがしばしばあった。そう言われてみれば、そうかもしれないととても単純に納得して、こうして同じタイトルのまま出版されるなんて、当時はぜんぜん、思わなかった。