いつも胸やけ

ムーミンと夫と子どもと暮らしています

大阪滞在記

隣のおじさんのことが気になって仕方ない。
新大阪から乗り込んだ新幹線は自由席で、ほとんど満席だった。二列の通路側の一席が空いていて、みなそこには座らない。なるほど、窓際に座るおじさんが大きなキャリーケースを相棒のように通路側の席に置いているから、そこを「すみません(が座らせてください)」と言うのは億劫で、それでその席はおじさん(とキャリーケース)の安寧が保たれていたのだった。
が、わたしは座りたかったので「すみません(が座らせてください)」と断って、明らかにムッとしたおじさんが無言でキャリーケースを自分の膝の前に引き寄せ、こちらはこちらで居心地の悪さを感じつつ、それで座ることができた。
しかし、おじさんのキャリーケースは上背(上背?)があるせいで、下ろしたテーブルが浮いてしまっている。それで、テーブルを平らになるよう、何度もぎゅうぎゅう上からしつけるのだが、やはり傾いたまま、だから上に置かれた駅弁もほとんど落ちそうである。こういういたたまれなさのことが耐えがたく、もっとなんとか上手くやれないのだろうかと思いつつ、(わたしだったら机は仕舞ってキャリーケースに直接弁当を置く)するとおじさんは諦めたように脚を広げてどかっと座り直した。いわゆる、男性が電車で足を広げて座るマンスプレッディングって無意識でやっているものも含まれるのだろうが、これは明らかに威嚇だ。おーこわい。
あまり気にしないようにと、文庫を開いたり、のちしばらくのうたた寝から覚めると、明らかにさっきよりも足の幅が開いている。当たると不快なのでずれて座る。もはや座っているのではない。このおじさんは、この隣の椅子で「開脚している」。はあ。新幹線ではなく、ご自宅で存分に開脚してほしい。しかも斜めにかろうじて置かれている弁当はいつ食べるつもりなのか。もう諦めたのかビールだけ飲んでしまって、それは弁当と一緒に開ける算段ではなかったのか。

おじさんのことはさておき、ラテラルさんでのトークイベントは無事に終了して、ホッとしている。正直、観覧がめちゃくちゃ少なく、ほんとうに最後まで少なく、こんなに大阪にはたくさんの人がいるのに、りくろーおじさんの店は長蛇の列なのに、なぜ私たちのイベントには来てくれないのか。不思議で仕方ないのだけど、だからこそ、来ていただいた方には本当にありがとうと伝えたい。イベントでも話したけれど、登壇した際に(めっちゃ「ご登場です!!」みたいな音楽まで鳴らしてくれてうれし&恥ずかしい)最前列に叔父が座っているのが目に入り、なぜ!?!!と動揺したが、あとで休憩のときに聞けば黙って驚かせようと思ったのだと言う。これまたうれしい&恥ずかしい。

トークの内容は多岐にわたって、橋爪さんは「死にたさ」を、わたしは「死にたくなさ」を携えて、それらをある意味では創作のエネルギーにしていることを、さまざまなトピックから角度を変えてお互い確認したように思う。観覧も少なく、配信の方では反応が分からないのでどんなテンションでどこを見て話せばいいか最後まで迷いながらだったけれど、ただ隣の橋爪さんとお話しするのが楽しくて、楽しめたことはとてもよかったし、橋爪さんがたくさん話を引き出してくださってとてもありがたかった。

元々橋爪さんとはじめてお会いしたのが、ここ梅田で、2019年の夏にあった川上未映子さんの『夏物語』サイン会にお互いたまたま来ていて、それでその後大森静佳さん、土岐友浩さんが京都から梅田までやって来て「せっかくだしみんなで会いましょう!」と気さくに繋いでくださって、一緒にいたわたしの夫も含めみんなでご飯を食べて、わたしと橋爪さんは初対面のまま、ノリでカラオケに行くという愉快な一日を過ごしたのだった。それ以降ゆるやかにTwitterで繋がっているご縁。

そこでまたひとつ、感慨深いのはサイン会で訪れた梅田の紀伊國屋書店に『せいいっぱいの悪口』が置かれていたこと。イベント前にふらりと寄った店内に、確認する限り自分の本はなく、はじめは(やっぱ置いてないんだなぁ……)と期待はかけずに行ったもののシュンとして、ダメ元で検索機で探すと、なんと「×在庫なし」と出るではないか。あったんだ。あったのが全てだれかに購入されて、それでないんじゃん!とやにわによろこびがやってきて、それで文芸担当の方をつかまえてお礼を申し上げたのだった。「また、仕入れていただけるのでしょうか!」と前のめりに聞くと、「在庫は自動管理になっているので、そのうち入るかと…」とのことで、出がいいようなら平置きにもします、と言っていただいた。4年前サイン会に訪れたときには、この同じ場所に自分の本が置かれる未来など考えすらせず、だからやはりとても不思議な気持ち。
昨日も大阪、京都三軒の書店にご挨拶へ伺って、サイン本も作らせてもらった。うち、天王寺のスタンダードブックストアさんではすでにサイン本は売り切れとのこと!ありがたい。サイン本はそうやって作らせてもらえれば売れ、本も平置きにするから売れるのだと思っているけれど、すべての本がそうできるわけではないことを思うと難しく、サイン本を作らせてもらえることも、新刊として平置きしてもらえることもただありがたい。作ったのだから、売れてほしい。増刷にこぎつけたらいいなと思う。

隣のおじさんはいよいよ駅弁をキャリーケースに仕舞い込んでしまった。斜めの机で食べることを諦めたのだな。

もうひとつ、うれしかったのはイベント後に「サインをお願いします」と来てくれた方が、手紙をくださったことで、その手紙を新幹線のなかでおじさんの開脚攻撃に耐えながら読み、ほとんどこちらが救われるような、こんな風にこの本がだれかに、というよりその手紙をくださった「たったひとり」に届いていることにわたしの方が励まされて、書いてよかったなと思う。読んでくださってありがとう。お手紙、ずっとずっと大切にします。

いちめんの雪 死んだひとにあいたい いきてるひとにはいきててほしい

トークでも話しましたが、橋爪志保さんの短歌のなかで、とても好きな一首です。

アーカイブ、まだご覧いただけるようです。あわせてぜひ。

https://twitcasting.tv/lateral_osaka/shopcart/195449