いつも胸やけ

ムーミンと夫と子どもと暮らしています

歌人見習いが車の免許を取るまで日記その10

服部さんの短歌講座を受けに、一か月ぶりの凍狂です。


乗るたびに飛行機はいいなあと思う。
空を飛ぶなんてすごい。ものすごい速さ。マッハだよ。空をすごい速さでで飛んでるなんて不思議。未来だ。かっこいいぞ。ロマンだぞ。
移りゆく空の表情にうっとりとしていると、突然ガタガタと視界がブレる。機体が揺れている。

そう、飛行機はホント必ずと言っていいほど、揺れる。「前線の影響」とか「乱気流によるもの」とか言うけれど、ともあれ揺れる。それでどうにかなりはしないのだろうということは分かっていてもやはりグッと拳に力が入ってしまう。チラッと他の人の様子をうかがっても、みんなゆったりとしている。大丈夫なのか。そうか。CAさんもにこにことしている。そうかそうか。でもその笑顔はほんとうか?ほんとうに大丈夫なのか?

だいたい。離陸の前には必ず「安全な飛行のために」とかって映像を見るのがほんとうは危険な証だ。新幹線や電車やバスなんかではそんなのやらないではないか。

音もなくすーっと頭上に降りてくる画面。
緊急着陸時の体勢、酸素マスクの付け方等々ワタシは毎回ちゃんと見るけれど、横のおじさんはもうぐーぐー寝ていたりして驚く。信頼、しているのだろうか。そしてひと通りの「もしものとき」の説明が終わると、また音もなく天井にしまわれてゆく画面。「快適な空の旅をお過ごしください」 うむ。

乗るんだ飛行機、と決めたんならもうあとは最悪の事態など考えてはいけないのだけれど、やはりワタシを乗せて空を飛んでいるという今ここ、その事実は意識してしまえばとんでもなく恐ろしいことだ。上空1万マイル。鉄の塊。マッハ。

そんなことを毎度考えるものだから、いまいちリラックスして空の旅を楽しめている気がしない。みんな優雅にコーヒー飲んだりしているのに。
機長のあいさつが頼みの綱、みたいなところがある。始まると待ってましたとばかりにとても安心するのだ。空の状況、高度、着陸予定時刻を聞きながら、ああ。あなたが。生身のあなたが、ワタシを凍狂まで連れていってくれるのですね。そこに、いるのですね、うんうん、と心からの安堵とそして敬意。ありがとうありがとう。あなたの声が聞けて、ヨカッタ。

「気温の高い日が続いております。どなた様もお身体を大切に、お元気でお過ごしください」
無事に着陸すると聞こえるCAさんの言葉にもジーンとなる。ああ無事にここまで。ほんとうにありがとう。心の中ではスタンディングオベーションである。

マア。ほんとありがたいことですよね。90分で凍狂に着いてしまうのだから。飛行機。すごい。

羽田に着いてから、ユニクロあるじゃん、と気づき念願のジャガーさんTシャツを入手。妹の分も買う。
空港から実家の最寄り駅までは直通のリムジンバスが出ているのでとても便利。

それにしても。駅に着いて人の多さに驚くこと。人、いっぱい。20年以上そこに暮らしていたはずなのに、2か月やそこら田舎に住むだけでその当たり前を忘れてしまうものなのだナァ。

妹に頼まれていたえのきを求め、駅前のスーパーへゆく。帰宅時刻だからだろうか、ここもすごい人だ。なんとなしにお惣菜コーナーへ。たくさんの人がお惣菜を手に取りまた戻し、かごへ入れ。みんな真剣だ。生活。生きてる感じ。なんかエネルギーというか気、みたいなものまで感じてしまう。活気だ。活気。いいなぁ。

お、試食まである。おいしそう、ひとついいかしら、と近寄ると婦人がスッとやってきてひとつ、そしてふたつ、試食ののり塩チキンを口へ。ワタシもあとに続いてひとつ。そしてまたすぐ先ほどの婦人がワタシのうしろに続いてのり塩チキンをひとつ、ふたつ。えーと思いながら目が離せない。ひとつ、ふたつ、みっつ。
すると横から「あの人もう20個くらい食べてるのよさっきから」と居合わせた人に耳打ちされる。そうなのか。なんかスゴイ。なんかスゴイですね、みたいな曖昧な笑顔をお互い浮かべたまま、ふわふわとしてしまう。

とても小綺麗で上品そうなご婦人。その手に商品はない。少し売り場を回るとまた戻ってきてのり塩チキンをひょいひょいと口へ入れる。鮮やかな一連の動作。どう処理していいのかわからない不思議な気持ちになって、思わずのり塩チキンをカゴに入れる。買います。わたし、のり塩チキン。


よくわからないけれどみんな幸せであればいいなと思う。





みんな魚 みんな責任感 みんな再結成されたバンドのドラム (笹井宏之)





#エッセイ #コラム #短歌 #車 #免許 #暮らし #飛行機